Ethical Guidelines for Medical and Health Research Involving Human Subjects
医学研究の分野では,研究を適切に実施する上で,個人情報保護を含む研究対象者保護の観点から研究者等が守るべき倫理指針として,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(医学系指針)」,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(ゲノム指針)」,「遺伝子治療等臨床研究に関する指針(遺伝子治療指針)」等の各種指針が定められてきた。これらの指針については,医学研究を取り巻く環境の変化等に応じ,必要な見直しが行われている。
近年,ヒトゲノム・遺伝子解析技術の進展に伴い,医学系指針及びゲノム指針の双方が適用される研究が増加してきたこと等を踏まえ,2021年6月,両指針を統合した「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(生命・医学系指針)」が施行されている。また,個人情報の保護に関する法律(個情法)が改正されたので,2022年3月に生命・医学系指針が見直された。
生命・医学系指針は,人を対象とする生命科学・医学系研究に携わる全ての関係者が遵守すべき事項を定めることにより,人間の尊厳及び人権が守られ,研究の適正な推進が図られるようにすることを主な目的として,研究者等の責務等(第2章),研究の適正な実施等(第3章),インフォームド・コンセント等(第4章),研究により得られた結果等の取扱い(第5章),研究の信頼性確保(第6章),重篤な有害事象への対応(第7章),倫理審査委員会(第8章),個人情報等,試料及び死者の試料・情報に係る基本的責務(第9章)等を定めている。
生命・医学系指針の基本方針は,以下の8点である。
① 社会的及び学術的意義を有する研究を実施すること
② 研究分野の特性に応じた科学的合理性を確保すること
③ 研究により得られる利益及び研究対象者への負担その他の不利益を比較考量すること
④ 独立した公正な立場にある倫理審査委員会の審査を受けること
⑤ 研究対象者への事前の十分な説明を行うとともに,自由な意思に基づく同意を得ること
⑥ 社会的に弱い立場にある者への特別な配慮をすること
⑦ 研究に利用する個人情報等を適切に管理すること
⑧ 研究の質及び透明性を確保すること
「生命科学・医学系研究」には,人の基本的生命現象(遺伝,発生,免疫等)を解明する,ヒトゲノム・遺伝子解析研究(例えば,人類遺伝学等の自然人類学のほか,人文学分野において,ヒトゲノム及び遺伝子の情報を用いた研究)が含まれ,医学系研究(例えば,医科学,臨床医学,公衆衛生学,予防医学,歯学,薬学,看護学,リハビリテーション学,検査学,医工学のほか,介護・福祉分野,食品衛生・栄養分野,環境衛生分野,労働安全衛生分野等で,個人の健康に関する情報を用いた疫学的手法による研究及び質的研究,AIを用いたこれらの研究)も含まれる。
なお,医療,介護・福祉等に関するものであっても,医事法や社会福祉学など人文・社会科学分野の研究の中には「医学系研究」に含まれないものもある。
インフォームド・コンセント(IC)等の手続きについては,以下の通り規定されている。
①新たに試料・情報を取得して研究を実施する場合
○侵襲及び介入を行わず,試料を用いない研究については,一定の要件を満たす場合に,IC手続等を適切な形で簡略化することができるものとした。
○新たに取得した情報(要配慮個人情報を除く)を共同研究機関に提供する場合のIC手続等については,既存の情報(要配慮個人情報を除く)を他の研究機関に提供する場合のIC手続等を準用することとした。
②自機関で保有する既存試料・情報を用いて研究を実施する場合
○IC手続等を行うことなく利用できる既存試料・情報は,既に特定の個人を識別できない状態に管理されている試料(当該試料から個人情報が取得されない場合に限る),既存の仮名加工情報,匿名加工情報及び個人関連情報とした。
○社会的に重要性の高い研究に既存試料・情報を用いる場合及び試料を用いない場合について,一定の要件を満たした場合には適切な同意又はオプトアウト(研究の実施についての情報を通知又は公開し,さらに可能な限り拒否の機会を保障すること)が許容されることとした。
③他の研究機関に既存試料・情報を提供する場合
○提供される既存試料・情報の種類(試料又は要配慮個人情報を提供する場合か否か)によって場合分けをし,試料及び要配慮個人情報を提供しようとする場合は原則ICを取得することとし,要配慮個人情報以外の情報を提供しようとする場合は原則適切な同意を取得することとした。
○IC手続等を行うことなく提供することができる既存試料・情報は,既に特定の個人を識別できない状態に管理されている試料(当該試料から個人情報が取得されない場合に限る),個人関連情報(一定の場合に限る)及び匿名加工情報(IC取得が困難な場合に限る)とした。
○一定の要件を満たす場合にはIC手続等を簡略化できるものとし,簡略化の要件を満たさない場合であっても,個情法の第三者提供の制限の例外要件に該当する場合は,オプトアウトによる提供が許容されるものとした。
○オプトアウトにより既存試料・情報を提供する際に研究対象者等へ通知し,又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置くべき事項について見直した。