シミュレーション・トレーニング

Simulation Training

 シミュレ―ション・トレーニングは,航空産業における旅客安全のためフライトシミュレーター開発に遡る。パイロットの安全な運航や危険を回避する能力を習得するために,仮想的環境の下で繰り返し練習を行い,現実の運航においても判断と行動を確実に行うことを目的としている。旅客運輸では一度に大勢の人命を預かることから事故を未然に防止するために急速に発達した。医療分野におけるミスは,周術期の約70%のミスが医療過誤による技術ミスよりも,コミュニケーション非技術的なスキル(Non-Technical Skill)によって引き起こされていることが報告された(Cooper 1984)。そこで人的なミスを減少させるため,医療分野でも航空機乗務員のトレーニングに用いられていたCRM(Crew Resource Management)が応用された。医療専門職の技術習得では,シミュレーション教育として学生から免許取得後の様々な能力ステージに合わせて,大学や病院等で実施される機会がある。近年,高価で高機能なシミュレーターが多く開発されており,より実践的な環境でトレーニングが実施できる機会も増えつつある。シミュレーション・トレーニングの重要点は,現状分析,課題抽出,目標設定を明確にすることである。シミュレーション・トレーニングをファシリテートする際には,トレーニング方法や使用する教材,準備物を整えることが重要となる。また十分に課題(シナリオ)の設定を練っておくことで,計画的なトレーニングが可能となる。形式的な知識は事前学習などで学んでおくこと,実践だと思いながら緊張感をもって実施すること,目標とする内容を絞り散漫にならないようにすることである。このような点は,シミュレーション前に目標の確認や手順を確認するブリーフィング(Briefing)の中で学習者に周知しておく必要がある。トレーニング実施中,ファシリテーター役は学習者へ合図(キューイング)を出し,思考の促進を手助け(プロンプティング)することで,より効果的で質の高い学習となる。シミュレーション・トレーニング終了時には,自分の行動や思考を振り返り,良かった点や課題や明確にすることが重要とされている。それはデブリーフィング(Debriefing)と呼ばれるものであり,学習者の行動,思考過程,感情,その他の情報の探索・分析し,その後の臨床現場におけるパフォーマンス向上に役立てることができる。デブリーフィングを実施するデブリーファーは,学習者やチームの良かった点,さらに良くなるための改善点をまとめていく(Plus-Delta)。さらにデブリーフィングを行う枠組みとしてGASモデルがあり,情報収集(Gather),分析(Analyze),まとめ(Summarize)の流れに沿ってデブリーフィングを行う。またデブリーフィング能力の評価や向上のためにDASH(Debriefing Assessment ForSimulation In Healthcare)といった評価項目も開発されている。トレーニングの評価は,学習者の発言や行動など可視化できる部分を評価対象とし,形成的評価として行うことが多い。昨今医学教育の国際的な質保証の要請への対応として,標準化のみならず大学の個性や独自性まで重要視される医学教育分野別認証制度が注目されている。これまでの知識集積型の学習だけではなく,タスクやスキルを効果的に身につける学習環境や方法が一層重要とされていることから,臨床現場での実習とともに,実践に活かせる教育として,シミュレーション・トレーニングの有効性が多く示唆されている。特に「フィードバック」「反復練習」「カリキュラムの統合」「難易度の範囲」「複数の学習戦略」「臨床的変化の把握」「環境の管理」「個別学習」「成果の定義」「シミュレーターの有効利用」の10項目を組み合わせて実施することで,シミュレーション・トレーニングの効果が高まる。

【関連用語】

事前学習,ブリーフィング,デブリーフィング