ノンテクニカルスキル

Non-Technical Skill(以下NTS)

 ノンテクニカルスキルとは,業務を遂行する際に必要な専門的な技術的スキルを補い,業務を安全かつ効率的に実施するために必要とされる認知的,社会的スキルである。NTSの概念が最初に使われたのは,ヨーロッパの航空業界においてであるが,医療事故を含むインシデントの原因の多くが,コミュニケーションをはじめとしたこのNTSであることから,医療分野においてもその応用が開始されている。例えば,イギリスとアイルランドでは,王立外科医師会附属外科学院がNTSに関するトレーニングを提供している。NTSのトレーニングは,航空業界のCRM(Crew Resource Management)訓練 から派生したものであり,CRMの主要な構成要素のほとんどが網羅されている。医学生を対象に英国医師会が発行する医学専門誌Student BMJ に掲載されたNTSの7つのカテゴリーとその構成要素は以下である:(1)状況認識(情報の収集,情報の解釈,将来状況の予測),(2)意思決定(問題の明確化,対応措置として複数選択肢の特定,リスクを考慮したうえでの対応措置の選択,実行結果を見たうえでの見直し),(3)コミュニケーション(相手への明確かつ簡潔な情報送信,伝達の際に文脈と意図についての情報を付加,相手からの情報の受信,情報伝達の妨害要素の認識及び除去努力),(4)チームワーク(チームメンバーの支援,意見対立や不調和の解決,情報の交換,活動の調整),(5)リーダーシップ(権限の行使と積極的な主張の展開,標準の維持,計画と優先順位づけ,業務量と資源の管理),(6)ストレス管理(ストレス兆候の察知,ストレスの諸影響についての理解・認識,ストレス対処策の実施),(7)疲労管理(疲労の兆候を察知,疲労の諸影響についての理解・認識,疲労対処策の実施)。

 米国においては,IOM(米国医学院)の報告書「人は誰でも間違える(To Err is Human)」の中で,医療事故の予防のためにCRMの概念を応用した多職種によるチームトレーニングの必要性が言及され,米国国防総省(DoD)と米国医療研究品質局(AHRQ)の協力のもと“チームSTEPPS(チームステップス,Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)” (以下TS)が開発された。これは先のCRMや軍隊などにおけるチームワークの研究をはじめとしたHROs(High-Reliability Organization:高信頼性組織)の数十年余りにわたるチーム・マネジメントのエビデンスに基づき,医療現場のために開発されたチームトレーニング・プログラムである。そしてWHO(世界保健機関)は,2011年に発表したWHO患者安全カリキュラムガイド(多職種版)において,学習すべき項目の一つとして「効果的なチームプレイヤーであること」を取り上げ,具体的な内容の多くをTSから引用している。TSの提案する5つの基本原理とそのツール・戦略は以下である:(1)チーム体制,(2)コミュニケーション(SBAR,コールアウト,チェックバック,ハンドオフ,など),(3)リーダーシップ(ブリーフ,デブリーフ,ハドル,など),(4)状況モニター(相互モニター,I’M SAFEチェックリスト,など),(5)相互支援(2回チャレンジルール,CUS,DESCスクリプト,など)。なお,TSに代表されるチームトレーニングは,従来の個人志向からチーム志向での取組みを重要視しているが,他のNTSの訓練は,個人が身につけておかねばならない個人のスキルとして,これまで個人レベルで特定し,訓練・評価されてきた個人志向である。さらにNTSは,レジリエンス工学を用いることで,さらに発展が期待できるとも考えられている。

【関連用語】

認知スキル,コミュニケーション,CRM,チームワーク,リーダーシップ,IOM(米国医学院),チームトレーニング,HROs(高信頼性組織),チーム STEPPS,WHO(世界保健機関),SBAR,コールアウト,チェックバック,ブリーフ,デブリーフ,ハドル,状況モニター,I’M SAFE チェックリスト,相互支援,2回チャレンジルール,CUS,DESC スクリプト,個人志向,チーム志向,レジリアンス工学