ヒューマンエラー

Human Error

 ヒューマンエラーとは端的にいうと,果たすべきことが果たされなかった事態のことであり,一般にうっかり間違いなど意図せずに(図らずも)生じたエラー(unintended error)をさす。なお意図的に果たさなかった事態は意図したエラー(intended error)といい,違反(violation)とされるが,緊急時などの状況では所定手順をあえて実施しないなど安全に貢献する場合もあり,この場合はレジリエンス行動として評価されることもある。

 意図しないエラーは認知特性など人間特性の結果として生じるものであり,似たものを取り扱うときの取り間違い,思い違いなど行為対象を誤るスリップ,行為そのものをし忘れたり,覚えていることが混乱したり記憶に関わるラプスが代表的なものである。違う患者に手術を実施してしまうなど,行動目標が不適切であるエラーをミステイクという。エラーを抑止するためには,使いやすい機器設備,適切な照明等の作業環境,リキャップ禁止などのエラーを避ける作業手順の設計,また疲労を避ける勤務時間(休憩)設計やシフトのまわし方など,人間工学(ヒューマンファクターズ)に基づくシステム改善が第一義である。これをエラー防止のためのシステムアプローチという。一方,エラーを起こした人を非難・懲戒し再発防止につなぐ考え方をパーソンアプローチというが,エラーは人間特性に由来するものであるから効果は乏しい。ただし,患者や薬剤の名称を指さし声に出して確認する指さし呼称,手術前にスタッフ全員で患者と手術部位・手術手順や役割を確認するTime Out,チェックリストの使用などのエラー防止のためのルールや作法を各人が確実に実施することは求められ,それを怠ることがないように指導する必要はある。

 またエラーを事故に結びつけないためのフールプルーフ,アラーム,フェイルセーフ等の技術,使い捨て手袋やエプロンといった保護具,ダブルチェックや引継ぎ簿などの仕組みも安全上,重要である。なお,フールプルーフとは,エラーや偶発的接触等による誤作動を防ぐ機構のことで,医療機器の電源ボタンにカバーをつけることがその例である。フェイルセーフは商業電源が切れた時に自動的にバッテリ駆動するなど故障(障害)時に機器を安全側に制御する機構のことである。

【関連用語】

人間工学,エラー,スリップ,ラスプ,ミステイク,パーソンアプローチ, システムアプローチ,フールプルーフ,フェイルセーフ,Time Out,指さし呼称,認知特性