医療の質指標

Quality Indicator

 医療の質指標は,医療の質を定量的に表現しようとするもので,医療の質改善のためのツールとなる。また,この開示や公開は,医療機関の説明責任を果たすことにも通じる。政策上も,医療の質の確保についての説明責任に通じる。

 一方で,医療の質指標には,妥当性の限界とスコープの限界があることを,十分に認識しておく必要がある。妥当性の面では,医療の質を厳密に測定することは極めて困難であり,症例ごとに様々な状況がある中,指標として割合を出す際にも分母と分子の症例の定義づけを厳密に正確にすることはできないという限界がある。また,スコープの面では,医療には様々な重要側面があり,定量化できるのはごく一部の側面に過ぎないという限界がある。使えるデータにも限りがあり,重要なものが指標化されるとは限らず,定量化しやすいところから指標となっていく傾向があることを否定できない。

 従って,医療の質指標をみる際,使う際には,その限界を十分に認識しておく必要があり,医療の質指標は,医療機関の格付け等に使うものではない。しかし,その限界をふまえれば,現状を把握し,改善に向けてのアクションを活発化させることのできる,大きなポテンシャルをもったツールである。

 診療ガイドラインやエビデンスに基づく推奨に則っているかどうかは,プロセスの指標として表現しうる。死亡などのアウトカムの指標は,患者ごとに重症度・リスクが異なるので,統計的に調整する必要がある。

 一方で,診療報酬請求データなどを用いて,施設レベルのみならず,地域レベルで,医療の質に関する指標を算出することができ,その地域差が明らかになりつつある。今後の地域の医療システムの改善に,大いに役立つものである。わが国では,すでに1990年代半ばより医療の質指標のデータ基盤づくりや多施設間比較は自発的なプロジェクトとして始まっている。DPCデータのように全国一律に同じデータセットが普及することにより,多施設で同じ定義で算出できるようになった。これらには検査値や時刻のデータなどが入っていないので,今後は,病院統合情報システムから,どのように標準的に標準的なデータセットを取ってくるか,という課題もある。

 医療界のデータ整備も進み,医療の質を指標化して,現状と改善を見えるようにしていこうという動きが高まっている。病院団体等のプロジェクトも展開し,これらの指標の公開なども近年進みつつある。指標の限界を認識した上で,医療の質向上に益々活用されることが期待される。

【関連用語】

診療ガイドライン,QI(Quality Indicator),臨床指標,CI(Clinical Indicator),クリニカルインディケーター,パフォーマンスインディケーター