医事紛争

Medical Dispute

 「医事紛争」という語句の明確な定義はないが,医療に関連する“もめごと”を指す際に使用されている。診療上のミスの有無にかかわらない。医療者側にミスがある場合も,医療者側にミスが なく患者が一方的に苦情を申し立てている場合も含まれる。

 医事紛争の解決の方法は,訴訟によるものとよらないものに大きく分けられる。前者には判決と訴訟上の和解があり,後者には裁判外の和解(いわゆる示談)と裁判外紛争解決手続(Alternative dispute resolution,ADR)がある。判決は,原告の請求について審理が尽くされ,権利関係の存否に関する判断に到達した結果,裁判所が主体となり請求を認容あるいは棄却するものである(民事訴訟法 243 条)。訴訟上の和解は,訴訟継続中に当事者双方がお互いに譲歩することによって訴訟を終了させる旨の期日における合意である。和解調書が作成されると確定判決と同一の効力が付与される(同法267条)。訴訟上の和解は,判決よりも柔軟な解決が可能であると言われている。たとえば,損害賠償請求訴訟では損害賠償請求が認められるか否かの判断が下されることになるが,訴訟上の和解では謝罪や再発防止の取り組みなどについても合意可能である。

 裁判外の和解は民法上の和解契約(民法695条)であり,いわゆる「示談」と呼ばれるものである。判決と同一の効力がない点で,裁判上の和解と異なる。裁判外紛争解決手続(ADR)は,中立な第三者的立場の者の下で話し合いによる解決を図るしくみであり,手続きの柔軟性や費用の面から,近年その有用性が注目されている。

 医事紛争は,発生した有害事象を契機に生じることもあるが,場合によっては,有害事象も診療上のミスも無いにも関わらず患者が患者相談窓口へ苦情を申し立てたりすることで生じることもある。病院と患者の対立関係を,病院が組織として,両者の対話や協調により解決を図ることが,コンフリクトマネジメントである。海外の調査では,医療事故被害者・家族が医師を訴える原因は,再発防止,説明,補償,責任の所在を明らかにすることを求めることにあるとされる(Vincent 1994)。病院と患者が対立しないようにするためには,対話を通じて患者の求める情報を提示していくことが必要であり,そのためには医療対話推進者を配置したり,事故発生時などにはメディエーターによりメディエーション(対話促進・関係修復)を図ったりすることが有用である。

【関連用語】

苦情,患者相談窓口,メディエーション,コンフリクトマネジメント,裁判外紛争解決手続(ADR),示談,訴訟