Quality of Care
医療の質に関連する定義は,様々なものがあるが,いずれも重要な視点を提供している。IOMは,医療の質を「個人と集団への医療行為が望ましい健康状態をもたらす確率,最新の知識と一致する程度(1990)」と定義し,6つの目標,「有効性,安全性,患者中心,適時性,効率性,公平性(2001)」を挙げている。
また,医療の質の研究に大きな貢献をしたDonabedian Aは,技術的要素に加えて,対人的要素も重視し,療養環境の適切性も医療の質の要素に含めている。彼が提唱した,ストラクチャ(構造),プロセス(過程),アウトカム(結果)という,質の評価の枠組みは広く引用されている。アウトカムについて,Lohr KNは,5つのD(5D’s)として,死亡,疾患,障害,不-満足,不-快適(death,disease,disability,dis-satisfaction,discomfort)を挙げ,患者の生活の質(QOL)や満足度も明確に位置付けた。そして,高齢者が増え,多疾患が併存するようになると,心理社会的な面も含め包括的に,継続性をもった医療が重要になる。
忘れてはならないのは,医療の質や求められる医療の評価軸が,立場によって変わりうるということである。患者,患者の家族,患者の介護者,医療提供者(医師,看護師,他の病院職員),病院管理者,支払い者(健保組合,政府,等),消費者・地域(住民)・国民など,それぞれで,支払者側と医療を受ける側では,効率性に対する重視度が異なってくる。
さらに,近年では,患者を中心に患者の立場を最大限に重んじること,安全性を確保すること,倫理的・社会的規範に則っていることが,医療の質において,益々重要視されるようになってきている。今後,医療の財源や資源の有限性が益々実感されていく時代においては,いかに効率的に質の高い医療を提供するか,どこまで医療資源を投入すべきか,ということが痛切な課題となり,公正性・公平性を含め,社会的,倫理的な検討が,より一層必要となってくるであろう。