Faculty Development(以下FD)
2004年,大学の独立行政法人化にともない,大学は特色ある教育を提供していくことが求められている。これは少子化しているわが国において大きな課題であり,ファカルティ・ディベロップメント(FD)のはたすべき役割は大きい。
文部科学省は,FDを「組織的な教育体制を構築する一環として,個々の教員の授業内容・方法を不断に改善するため,全学あるいは学部・学科全体で,それぞれの大学の教育理念・教育目標や教育内容・方法について組織的な研究・研修を実施すること」と定義づけている。FDの法的規定としては,中教審答申「新時代の大学院教育」(平成17年9月5日)を受け,大学院設置基準第14条の3で「授業及び研究指導の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする」(平成18年3月31日)と,FDが義務化された。さらに,努力義務としてFDが規定されていた大学設置基準においても,第25条の3(平成19年7月31日)にて同様に義務化された。平成12年度には52%であったFDの実施率は,義務化が規定された以降には90%を超えている。近年では,能動的学修(アクティブ・ラーニング)を推進するために,ワークショップ形式等のFDを積極的に実施していくことが求められている。
このように,法的義務化を受け,ほとんどの大学がFDを実施しているが,内容については課題が残る。まず,教員全員がFDに参加した大学は1割程度であると言われ,大学教員のFDに対する意識がまだまだ乏しい。さらに,FDの実施内容は,講演会やシンポジウム等の実施,教員相互の授業参観,教育方法改善のためのワークショップまたは授業検討会が多く行われており,FDを教育改善とりわけ授業改善に関する大学教員個人の研修ととらえられていることがうかがえる。
しかし,FDは大学教員個人の授業の内容や方法の改善に関する研修のみを示す概念ではない。もちろん教員の質を向上させることは教育の質向上に関わることは言うまでもない。だが,教育の水準を上げるには,大学全体での教育に対するマネジメントが重要である。
大学全体のマネジメントという点で言えば,プログラムとしての学士課程教育の構築を目的としたワークショップ等をFDの一環として実施する大学が散見され,大学全体における教育改善への関心が見られる。また,事務職員だけでなく教員や技術職員等を含む職員が大学運営に必要な知識・技能を身に付け,能力・資質を向上させるために,スタッフ・ディベロップメント(SD)の機会を設けることを求める大学設置基準等の一部を改正する省令(平成28年3月31日)が出された。このように,大学全体として教育の質を向上させていく大学環境の構築が求められている。
これらから,今後のFDは大学教員の授業内容などの質を改善させるのみではなく,大学全体としての教育改善に対する運営や企画などのマネジメントをディベロップしていくことが必要であると言えよう。