かかりつけ医,かかりつけ医機能,かかりつけ医療機関

General Practitioner, Primary Health Care Function,Primary Health Care Agency

(1)かかりつけ医,かかりつけ医機能

 かかりつけ医は「健康に関することをなんでも相談できる上,最新の医療情報を熟知して,必要な時には専門医,専門医療機関を紹介してくれる,身近で頼りになる地域医療,保健,福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義された1)

 2022年6月に閣議決定された「骨太の方針 2022」には「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記された。「医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については,今後の医療ニーズや人口動態の変化,コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ,質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため,機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし,かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに,地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。」2)

 かかりつけ医機能については,医療法施行規則(省令)において,「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能として厚生労働大臣が定めるもの(以下「かかりつけ医機能」)」と記載されている。また,「医療法施行規則別表第一の規定に基づく病院,診療所又は助産所の管理者が都道府県知事に報告しなければならない事項として医療法施行規則別表第一に掲げる事項の内,厚生労働大臣の定めるもの(告示)」においては,厚生労働大臣が定める「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能(かかりつけ医機能)」としての項目が記載されている。しかし,日本病院会は「「かかりつけ医機能」に関する議論が進む中で,その機能の担い手が一人の医師を中心として考えられていること,当該機能は医療法施行規則等現行法制度で定められているものの,その機能を有している医療機関が明らかとなっていないこと,及び今般の新型コロナウイルス感染症のまん延によりその機能が十分に発揮されていないことが露呈したと言われていること等の問題があげられる。」として,2022年11月2日,「かかりつけ医機能」に関する提言を厚生労働大臣に提示した3)。現行の医療機能情報提供制度における不明確かつ基準が適切とは言い難い項目を見直して,整理する必要があるとした。(1)診療時間内外問わず自院で地域住民に対応する,もしくは他の医療機関と連携して対応する(患者の病状や当該医療機関の当日の人員体制などの理由から自院のみで対応することができない場合でも,身近な地域の医療機関と相互に補完しあい,「かかりつけ医機能」を確保する)。(2)特定の領域に偏らない広範囲にわたる全人的医療を行う。(3)総合的な医学的管理を行う。

(2)かかりつけ医機能を担う医療機関を中心とした医療・介護の水平的連携

 平成22年10月から15回にわたり社会保障審議会医療部会で審議された医療提供体制の改革について,2022年12月28日,社会保障審議会医療部会は「医療提供体制の改革に関する意見」4)をまとめて公表した。

 「かかりつけ医機能報告制度」の創設や2040年頃までを見据えた新たな地域医療構想の策定などを盛り込んだ。「医療提供体制の改革に関する意見」は,2040年頃まで増加し続ける高齢者を支えるため,かかりつけ医機能を担う医療機関を中心とした医療・介護の「水平的連携」を地域包括ケアのなかで推進し,「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築することを明記している。実現に向けた施策の柱に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」と「医療法人制度の見直し」を掲げた。

 厚生労働省は,法改正が必要な事項を整理し,2023年2月10日通常国会への医療法等の改正案「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」(全世代社会保障法案)を提出した5)。「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和5年法律第31号。以下「改正法」という。)については,2023年5月19日公布され, 順次施行することとされた6)

 「かかりつけ医機能」の定義を,現行省令の「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能」との記載を踏まえて法定化する。「厚生労働大臣は,前項第一号から第三号までに掲げる事項を定めるに当たっては,病床の機能の分化及び連携の推進,医療法第六条の三第一項に規定するかかりつけ医機能(次条第四項において「かかりつけ医機能」という。)の確保並びに地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(平成元年法律第六十四号)第二条第一項に規定する地域包括ケアシステム(次条第四項において「地域包括ケアシステム」という。)の構築に向けた取組並びに国民の加齢に伴う身体的,精神的及び社会的な特性を踏まえた医療及び介護の効果的かつ効率的な提供の重要性に留意するものとする。」

 今後(1)医療機能情報提供制度を刷新し(2)新たな「かかりつけ医機能報告」制度を創設する。「かかりつけ医機能報告制度」の骨格であるが,病院や診療所が都道府県に報告する項目として,発生頻度が高い疾患の診療,その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能,休日・時間外診療の機能,入退院時の支援機能,在宅医療の提供機能,介護サービスとの連携機能,その他厚労省令で定める機能―の有無とその内容である。他院との連携で機能を担う場合は,連携先の名称と連携内容の報告も求める。法改正を踏まえて,都道府県,地域における,かかりつけ医療機関を中心とした,医療介護福祉の連携の強化が図られることが期待される。

 参議院厚生労働委員会は,「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(令和5年5月11日)に,今後の論点を明記している7)。かかりつけ医機能に関する箇所を抜粋する。「7,新たに刷新・創設される医療機能情報提供制度及びかかりつけ医機能報告制度について,医療機関に報告を求める項目等の詳細が厚生労働省令に委任され,本法の審査過程において当該厚生労働省令の具体的内容が明らかとならず,その詳細が本法成立後の有識者等による検討に委ねられたこと等を踏まえ,当該有識者等による検討結果や検討過程における議論の内容について,本法施行に先立ち,明らかにすること。また,当該有識者等による検討の場やその構成員について,決定次第,明らかにすること。8,本法のかかりつけ医機能に関する制度改正については,同機能が発揮される第一歩と位置付け,全ての国民・患者がそのニーズに応じて同機能を有する医療機関を選択して利用できるよう,速やかに検討し,制度整備を進めること。また,同機能を有する医療機関に勤務しようとする者への教育及び研修の充実に加え,処遇改善やキャリアパスの構築支援等,これらの者が増加するような取組を推進すること。9,かかりつけ医機能報告の対象となる慢性の疾患を有する高齢者その他の継続的な医療を要する者については,障害児・者,医療的ケア児,難病患者を含めるなど適切に定め,将来は,継続的な医療を要しない者を含め,かかりつけ医機能報告の対象について検討すること。」

出典 URL(最終アクセスは,2023年6月30日)
1)日本医師会・四病院団体協議会「日本医師会・四病院団体協議会合同提言 医療提供体制のあり方」2013年8月8日
https://www.ajha.or.jp/topics/4byou/pdf/131007_1.pdf
2)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/0607/shiryo_04-1.pdf
3)http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20221102_01.pdf
4)https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001032085.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000210433_00036.html
5)「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」
・概要:https://www.mhlw.go.jp/content/001056106.pdf
・法律案要綱:https://www.mhlw.go.jp/content/001056108.pdf
・法律案新旧対照条文:https://www.mhlw.go.jp/content/001056111.pdf
6)「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H230522S0010.pdf
「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」新旧対象条文
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/hourei/H230522S0011.pdf
7)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001114697.pdf

【関連用語】

機能分化,地域医療構想,地域包括ケア